強化子の大切さ(行動と強化子の関係)

強化子の大切さ(行動と強化子の関係)

子どもに新しい行動を教えるとき、強化子はとても大切です。
ここでは、なぜ強化子が大切なのか、その理論的背景について説明します。

はじめに、子どもの行動と強化子の関係について仮想事例を元に見ていきましょう。

Sくんは自宅のソファーでお父さんと並んでテレビを見ていました。すると、お父さんの肩の上に、赤い糸くずが乗っていることに気がつきます。Sくんは何となくそれを手にとって、「パパ、赤いのついてた!」と教えてあげました。するとお父さんから、「わ~、ありがとう!Sは優しいなぁ!」と笑顔で褒められ、頭を撫でられました。Sくんとしては何となくやってみたことだったのですが、思いがけずお父さんから褒められたので、とても嬉しくなりました。

ここでを、Sくんの立場から「行動」と「結果」の関係で図に示すと、図1のようになります。Sくんは、糸くずを取ったら(行動)、お父さんから褒められた(結果)という随伴性(行動と結果の関係)を経験したことになります。


図1.

次の日の夜、Sくんがまた同じような場面に遭遇したら、どのような行動をとるでしょうか?きっとSくんは、同じように糸くずを取ってお父さんに知らせるでしょう。なぜなら、前の日の経験から、糸くずを取ればまたパパに褒めてもらえるからです。図1の随伴性を経験した後に、Sくんの糸くずを取る行動が増えていくならば、その行動の直後に提示された結果(ここではお父さんから褒められること)は「強化子」であると言います。

つまり強化子とは、「行動の直後に提示することによって、その行動が起こりやすくなるもの」のことです。

しかし、糸くずを取るという行動は、いつでも見られるわけではありません。当たり前のことのようなことですが、糸くずがついていない状況ではそのような行動は起こらず、糸くずがついている状況でその行動が喚起されます。これを図で示すと、行動分析学でもっとも基本となる三項随伴性の枠が完成します。



図2.

ここで押さえておきたいポイントは、三項随伴性が成立する際は、まず初めに「行動と強化子の関係(図1)」が形成されるということです。そして、それが形成されるときに子どもの周囲にあった刺激が、行動を喚起する刺激(弁別刺激)となります。
以上のように、新しい行動が形成されるメカニズムを理解しておくと、子どもに新しい行動を指導しようとするときや、適切な行動の頻度を高めようとする場合、まずはその行動の直後に必ず強化子を提示することが大切だということがわかります。
子どもの指導を計画するとき、きっかけを多く与えて行動を促そうと考えるよりも先に、目的とする行動が起きたらどのような強化子を用いてそれを強化しようかと考えておくと良いでしょう。
強化子を与える際の注意点や、強化子の種類については、他のコンテンツをご参照ください。

おまけ

このような行動形成のメカニズムは、動物実験でも明らかになっています。レバーを押すと餌が出てくるという仕掛けが備わった箱の中にネズミを入れると、ネズミは初めのうちは様々な行動を示します。様々な行動を示している中で、ネズミは「たまたま」レバーを押し(行動)、出てきた餌を食べます(結果)。しばらくすると、ネズミは今度は自分からレバーを押すようになります。餌はネズミにとって強化子として機能し、レバー押し行動は増えていきます。餌が得られたときに存在していたレバーは、それ以降、レバー押し行動を喚起する刺激(弁別刺激)となります。