実践例:教室移動や活動を拒否する

実践例:教室移動や活動を拒否する

ワークシート1:(基礎情報)

年齢 11歳
性別
診断名 知的障害
所属 特別支援学校
知能検査 療育手帳A
特徴 発語はあり、2語文程度で自分から他者に話しかけたり、質問に答えたりすることができる。教員に積極的に声をかけるが、同級生や上級生や下級生にも声をかけることが多い。「えらいね」、「元気?」等の適切と思われる声かけがある一方で、何名かの過剰に反応する相手に対して、つっついたり、押したり等の不適切な行動を執拗に行うことがある。 パズルをしたりビデオを見ることが好きで、そのような好きな活動を切り上げたりすることが難しい。また、教室移動するときや、「~しよう」と誘いかけるときは、ほぼお決まりのように「いやだ」「やらない」等と言って机の下に隠れたり、物を投げたり倒したりして拒否をする。このような言動は学校側が把握する限りでは小学校1年の頃から続いていて、家庭でも同様に起こっていた。これまで学校では、こうした拒否に対しては、注目や声かけを行わないという方法をとってきた。また、周りの人が先に行き、教員がその先で隠れて待っていることで、時間をおいてついていくこともある。 パズルやDVD等を本児が自由に取出しすことのできない、鍵のかかるところにしまうと、「いやだ」という拒否が減り、何らかの課題をやり終えた後に「~(パズル等)ちょうだい」と伝えられることもある。

 

ワークシート2:(MASDurand とCrriminsが1988年に発表した、行動問題の機能を探るための質問紙。16の質問項目からなり、7段階のリッカートスケールで評価を行う。評価の結果をもとに、物や活動の獲得要求、注目要求、逃避要求、感覚要求の4種類の機能のいずれが当該行動の機能である可能性が高いのか、推測することができる。主観的な評価ではあるが、信頼性や妥当性が確認されている。

お子さんの 拒否 という行動について、教師1のMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 2. 3. 4.
5. 6. 7. 8.
9. 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 14 17
平均点= 1.75 3.5 2.25 4.25
順位=

お子さんの 拒否 という行動について、教師2のMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 2. 3. 4.
5. 6. 7. 8.
9. 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 13 21 15 20
平均点= 3.25 5.25 3.75
順位=

ワークシート3:(行動問題の特徴)

気になる 拒否 という行動について以下の質問項目にお答えください。特に何らかの傾向がなかったり回答することが難しい場合は無記入でもかまいません。

1. その行動はいつ起こることが多いですか? 着替え、配膳下膳、朝の会、帰りの会、移動、授業の切替
2. その行動はどこで起こることが多いですか? 教室
3. その行動は誰に対して、あるいは誰と一緒のときにおこることが多いですか? 担任
4. その行動は何歳くらいから始まっていますか? 昔から (母親は「最近、家では私の前で言わなくなった」)
5. その行動はどのくらいの頻度で起こりますか? (たとえば、1日に2,3回、1時間に1,2回、1週間に1,2回など) 1日中ある、上記の1で書いたような場面は毎回起こる
6. その行動はどのくらいの強さで起こりますか? (たとえば、隣の部屋に聞こえるくらいの声、叩いたところが青くなるくらいの強さなど) 大きな声、壁を蹴る、物を投げ散らかす
7. その行動が起こっている様子を具体的にご記入ください(「他害」というのではなく、頭を自分のこぶしで叩くなど) 「いやだー」「やらない」等と叫ぶ、床に座り込む
8. その行動に対して、どのように対応しますか? 該当することに○をしてください ○放っておく・要求しているものを渡す・好きなことをやらせる・○その場から離す・注意する・クールダウンのための手続きをとる(具体的には)・その他(声をかけて誘う、先に行く、本人を別の部屋に連れていく)
9. その行動は上記の方法で収束しますか? 収束することもあるが、活動自体が終わりになってしまうこともあるので拒否したまま終わることもある
10. その行動はどのくらいの時間続きますか? その時間ずっと(体育に行かずに教室にずっといっぱなし等)、2分ぐらいで収束することもある
11. その行動と関連していると思われる項目があれば、○をして具体的に記入してください。 体調(                 )
○疲労( 家庭との関係で         )
服薬(                 )
音(                  )
睡眠(                 )
食事(                 )
○集団の大きさ( 活動内容による     )
○指導形態など( 活動内容による     )
12. お子さんが特に興味や関心の高いことは何ですか?また、こだわりはありますか? DVD、パズル、小さい子、音楽
13. お子さんが苦手なことや嫌いなことはどんなことですか? 体を動かす、体育
14. お子さんの主となるコミュニケーション手段は何ですか? 言語
15. 左記の項目において、お子さんの好きなことがあれば、具体的にご記入ください。 遊び( DVD、パズル           )
キャラクター(ジブリ、プリキュア、あいかつ)
歌手(                  )
食べ物( 肉               )
趣味(  パズル、DVD         )
遊び (                )
その他(                )
16. お子さんが人とのかかわりで喜ぶことはどんなことがありますか?先の項目において該当することがあれば具体的にご記入ください 拍手・頭なで・○ハイタッチ・握手・くすぐりなど
遊び(                 )
賞賛(                 )
お手伝い(               )
儀式的なやり取り(           )
お出かけ(               )
お小遣い (              )
その他( 会話、リズムのあるフレーズ  )

ワークシート6:(FAOF)

ワークシート8:(頭の中のアセスメント)

ワークシート9:(ABC分析)

きっかけ 行動 結果および対応
・教室移動 ・できるけれどやりたくない活動      等 拒否 ・拒否には対応せず、来ない/やらない場合は、ときに諦める


本児は
・嫌な活動を全くしなくて済むこともある

きっかけ 行動 結果および対応
好きな活動を途中で中断する 拒否 ・拒否には対応せず、好きな活動を取り去り、本児が次の活動に興味をもったらさりげなく参加させる


本児は
・抵抗しても好きな活動はできず、次の活動に気を取られているうちになんだか参加している

本児の拒否の行動は、苦手な活動への教室移動やできるけれどやりたくない活動への促し場面で起こる場合が多く、その場合は主に「逃避」の機能をもっていると推測できる。また、好きな活動の中断を求められるときの拒否は主に「物・活動の要求」の機能をもっていると推測できる。そして、拒否の場面では笑いながらやり取りを楽しむこともあるということから、「注目」の機能も含んでいる可能性がある。

支援計画

支援方針

○苦手な活動への教室移動やできるけれどやりたくない活動ができたときはトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。がもらえ、設定された目標数の適切な行動ができたときには、お楽しみができるというシステムを導入し、適切な行動を増やしていけるようにする。

○本児がタイマー音をきっかけに好きな活動を切り上げ、次の活動へ移行できるようにしていくために、次の活動の内容に工夫を加えて移行しやすい状況を作り、パターン化した片付けの方法を取り入れていく。

1. 設定された適切な行動を目標数行う。
2. 好きな活動を中断するときに拒否をせずに応じ、次の活動に移行する。

1に対するアプローチ

【教材1:トークン】を使用する。トークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を獲得できる目標行動には、現在難なくできている行動を多く取り入れ、徐々にその難易度をあげていく。トークンシステムトークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。のルールとして、目標行動が拒否することなく達成できたら、褒めた上でトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を渡す。また、拒否があっても達成できた場合は価値の低いトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を渡し、全く達成できなかった場合はトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を渡さない。トークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。が目標数揃ったら(価値が低いトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。が含まれていても)、ご褒美の活動(帰りの会の前にビデオを見る、パズルをする、など)を行う機会を与える。

きっかけ 行動 結果および対応
  • ・教室移動
  • ・できるけれどやりたくない活動      等
  • ・移動する
  • ・取り組む 等
  • ・できたら褒めてトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を渡す
  • ・全部揃ったらご褒美の活動を与える

  • 本児は
  • ・ひとつずつやったことが褒められ、トークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。がもらえる
  • ・全部揃うと、ご褒美の活動ができる
行動 結果および対応
拒否する ・拒否には対応せず、目標行動が達成できたら価値の低いトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。を渡す


  • 本児は
  • ・拒否しても、注目されない
  • ・ご褒美の活動はできるが、もらえるのが価値の低いトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。である

  • ・拒否には対応せず、目標行動が達成できなかったら、トークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。は渡さない
  • ・ご褒美の活動は与えない

本児は
・拒否をしても注目されない

【教材1:トークン】

2に対するアプローチ

帰りの会の前は、ビデオ等の好きな活動に従事しているが、ここを中断する。本児が好きな活動を始める前に、帰りの会が始まるまでの時間をタイマーで設定する。そして、タイマーが鳴ったら、【教材2:タイマーボード】のセリフを本児と一緒に読み、「片付けの歌」を歌いながら本児と一緒に片付けを行う。片付けができたら、カレンダーの次の日に本児の希望を聞きながら「ビデオ」等と書き込む。その後すぐに、本児が参加したくなる活動(曲に合わせた手遊び歌)が導入として設定された、帰りの会を始める。なお、この帰りの会の前の活動は、先のトークントークンとは般性強化子あるいは代理貨幣ともいわれる。トークンを集めることにより、価値のある強化子=バックアップ強化子と交換できるシステムをトークンエコノミーシステムという。と交換したものである。

きっかけ 行動 結果および対応
タイマーが鳴り、好きな活動(パズル、ビデオ)を途中でやめる場面 片付ける
  • 1  片付けができたことを褒める
  • 2  カレンダーの次の日に「ビデオ/パズル」と書き込む
  • 3  帰りの会を始める

  • 本児は
  • ・褒められる
  • ・また好きなことができることを約束してもらえる
行動 結果および対応
拒否する
  • 1  対応せず、片付けの歌を歌いながら片付け始め、最後の一押しを本児にやってもらう
  • 2  片付けができたら褒める
  • 3 本児とタイマーボードのセリフを読んで、カレンダーの次の日に「ビデオ/パズル」と書き込む
  • 4 帰りの会を始める

  • 本児は
  • ・拒否し続けても好きなことはできないし、次の約束もカレンダーに書いてもらえない
  • ・帰りの会が始まってしまう

【教材2:タイマーボード】


ポイント

本児は、拒否の行動が様々な場面で目立つが「〇〇しよう」と先生や友達を誘うなど、他者ととてもよい関わりをもてる面ももち合わせている。そして、「先生できたよ」と自ら評価を求める等、褒められることが大好きである。そんな本児が、拒否ではなく適切な行動の方がたくさんの人に賞賛してもらえるということに気づき、適切な行動が増えるよう、このような支援計画を作成した。

ちえちゃん