非随伴性強化(NCR:Non Contingent Reinforcement)
NCRとは
行動問題に対する介入方法の一つです。行動問題を維持している強化子を、対象者の行動とは無関係に豊富に提供し、行動問題を減らしていく方法です。
NCRの原理
NCRでは、強化子を豊富に提供するため、行動問題を生じずとも強化子を得ることができます。その結果、行動問題が減っていくと考えられます。
例えば、他者からの注目によって行動問題が強化されている人にNCRを用いる場合、対象者の行動に関係なく注目(声掛け、目配せ、関わりなど)をたくさん与えます。すると、それまでの「注目がない(先行事象)」→「行動問題(行動)」→「注目がある(結果事象)」という随伴性が崩れ、行動問題を生じにくくなります。
NCRを効果的に用いるために気を付けること
<1:行動問題の機能と行動問題を維持している強化子を特定する>
まず第一に、行動問題がどの様な状況下で生じ、何によって維持されているのかを確認する必要があります。注目要求、物や活動の獲得要求、苦手なことからの逃避要求、感覚的な刺激を求めて行う感覚要求のうち、対象者の行動が何によって生じているのかを把握します。その上で、対象者にとってどのような強化子が有効かを確認します。
<2:行動問題が生起したか否かに関わらず強化子を豊富に与える>
次に、これまで述べてきたように、対象者の行動問題とは無関係に、強化子をたくさん提供します。
<3:行動問題の低減を確認しながら徐々に強化子を与える間隔を広げる(強化子の量を減らす)>
常に強化子を豊富に与える、ということはとても大変なことです。例えば、先の例のように、注目を得るために行動問題が生じている人に対して、始終注目を与え続けるというのは現実的ではありません。そこで、最終的には豊富に与えていた強化子を徐々に減らしていき、日常生活で使用しやすいレベルにまで下げる必要があります。NCRでは、初めに「強化子がない→行動問題→強化子がある」という関係を崩すことができるため、段階的に強化子の量を減らすことで行動問題の頻度を低いまま維持することができます。もし、強化子を減らしている途中で行動問題が多く生起するようであれば、強化子の量を一つ前の段階に戻し、行動問題が減ることを確認することが必要です。
NCRの実際例
課題が呈示されると、自傷行動や床にうつ伏す行動が生じるAさんに対してNCRを用い、行動問題の低減と課題従事行動の促進を図りました。
<1:行動問題と行動問題を維持している強化子の特定>
Aさんは、課題が呈示される場面において行動問題が生じ、課題が取り去られると行動問題が止むことから、「苦手な課題からの逃避要求」によって行動が生じていると考えられました。また、課題が呈示されていない場面においては行動問題が生じないことから、「休憩時間」が強化子として利用できると推察されました。
<2:強化子を豊富に提供する>
まずは、課題を全く呈示せず、休憩時間だけ与えることにしました。すると、行動問題は全く生じませんでした。この機会は2回設けました。
<3:行動問題の低減を確認しながら徐々に強化子を与える間隔を広げる>
休憩時間を豊富に提供すると、行動問題が生じないことが確認できたことより、徐々に強化子(休憩時間)を減らし、課題を呈示する時間を増やしていくこととしました。
強化子を減らす際には、以下のスケジュールを用いることとしました。
スケジュール①:300秒(5分)に一度240秒(4分)間強化子を呈示する
課題を行うかどうかに関わらず、約60秒間課題を呈示します。約60秒経ったら課題をAさんの目の前から取り除き、「お勉強お休みです」と伝えて休憩を与えます。その際、「おやすみ」の文字とイラストが描かれた紙をAさんの前に呈示しました。240秒にセットされたタイマーが鳴ったら、先と同様にAさんの目の前に課題を呈示します。これを、30分間の中で6回繰り返しました。
このスケジュールで2回連続して行動問題がほぼ生じないことが確認されたため、次のスケジュールに移ることにしました。
スケジュール②:300秒(5分)に一度170秒(2分50秒)間強化子を呈示する
方法は、「スケジュール①」とほぼ同様です。まず、課題を行うかどうかに関わらず、約130秒間課題を呈示します。約130秒経ったら課題をAさんの目の前から取り除き、「お勉強お休みです」と伝えて休憩を与えます。170秒にセットされたタイマーが鳴ったら、先と同様にAさんの目の前に課題を呈示します。これを、30分間の中で6回繰り返しました。
このスケジュールで2回連続して行動問題がほぼ生じないことが確認されたため、次のスケジュールに移ることにしました。
スケジュール③:300秒(5分)に一度100秒(1分40秒)間強化子を呈示する
方法は、先のスケジュールとほぼ同様です。
このスケジュールで2回連続して行動問題がほぼ生じないことが確認されたため、次のスケジュールに移ることにしました。
スケジュール④:300秒(5分)に一度30秒間強化子を呈示する
方法は、先のスケジュールとほぼ同様です
結果
NCRを用いる前までは、課題が呈示されると自傷や床にうつ伏せるといった行動がみられ、課題に取り組むことは難しかったです。しかし、NCRを用い、休憩時間をたくさん取り入れると行動問題が減り、課題に取り組む時間も増えました。また、休憩中は窓の外を見たり室内を歩き回ったりしていても、休憩が終わり、課題が呈示されると自ら着席し課題に取り組む様子もみられています。現在は、休憩時間が5分に1度30秒間しか与えられないスケジュールを用いていますが、休憩時間が減っても、行動問題はほぼ生じず黙々と課題に取り組んでいます。
かべちゃん