実践例:教室からの退室

実践例:教室からの退室

ワークシート1:(基礎情報)

おわかりになる範囲でご記入ください。

年齢 7歳(小学2年生)
性別
診断名 広汎性発達障害
所属 公立小学校(通常学級)
知能検査 検査名:WISC-Ⅲ
検査結果:FIQ.118
特徴 知的に遅れはない。
昆虫や恐竜の知識が豊富。
ことばによるコミュニケ—ションは可能であるが、一方的に興味のあることを伝えてくることが多い。
同学年の子どもと関わろうとすることは少なく、一人で過ごす。 

学校では、図工以外の授業への参加が難しく、離席して教室後方に寝そべる、退室して保健室へ行くことが多い。
校庭や体育館裏など、校内を歩き回ることもある。
授業中の退室時は、介助員が付き添って教室に戻るよう声かけを行っていたが、教室に戻ることは少ない。

 

ワークシート2:(MASDurand とCrriminsが1988年に発表した、行動問題の機能を探るための質問紙。16の質問項目からなり、7段階のリッカートスケールで評価を行う。評価の結果をもとに、物や活動の獲得要求、注目要求、逃避要求、感覚要求の4種類の機能のいずれが当該行動の機能である可能性が高いのか、推測することができる。主観的な評価ではあるが、信頼性や妥当性が確認されている。

お子さんの 教室からの退室 という行動についてのMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 5 2. 5 3. 4. 1
5. 6. 7. 8. 4
9. 4 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 12
平均点= 2.25 0.25 2.25
順位=

 

ワークシート3:(行動問題の特徴)

1. その行動はいつ起こることが多いですか? 国語・算数の授業開始後
2. その行動はどこで起こることが多いですか? 学校(教室)
3. その行動は誰に対して、あるいは誰と一緒のときにおこることが多いですか? 介助員(女性の学生スタッフ)
4. その行動は何歳くらいから始まっていますか? 6歳後半(1年生後期)
5. その行動はどのくらいの頻度で起こりますか?
(たとえば、1日に2,3回、1時間に1,2回、1週間に1,2回など)
ほぼ毎日。ほとんど毎時間。
6. その行動はどのくらいの強さで起こりますか?
(たとえば、隣の部屋に聞こえるくらいの声、叩いたところが青くなるくらいの強さなど)
一度退室すると、授業時間内に戻ってこられることが少ない。
7. その行動が起こっている様子を具体的にご記入ください(「他害」というのではなく、頭を自分のこぶしで叩くなど) 退室中は保健室でソファーに寝転んでいたり、好きなシリーズの本を読んだりして過ごしている。校庭に出るときは、土いじりや虫探しをしている。
8. その行動に対して、どのように対応しますか?
該当することに○をしてください
好きなことをやらせる・注意する
その他(介助員が付き添う、他の教員が教室に戻るよう声かけする)
9. その行動は上記の方法で収束しますか? しない
10. その行動はどのくらいの時間続きますか? 授業が終了するまで。
チャイムを聞いているが、休み時間になっても戻れないことがある。
11. その行動と関連していると思われる項目があれば、○をして具体的に記入してください。 ◯疲労(授業前の休み時間に激しく体を動かすと授業参加が難しくなる)
◯服薬(保護者の意向で、服薬を始めていない)
◯睡眠(寝転がりがあると、そのまま寝てしまうこともある)
◯集団の大きさ(一斉授業で頻発、通級の小集団指導では退室はほとんど見られない)
◯指導形態など(図工の時間には退室はほとんどない)
12. お子さんが特に興味や関心の高いことは何ですか?また、こだわりはありますか? 特定のシリーズの本(小学校低学年向け)
恐竜や昆虫の図鑑
工作
13. お子さんが苦手なことや嫌いなことはどんなことですか? 学習:数の概念の操作
生活:一斉の言語指示による集団行動
14. お子さんの主となるコミュニケーション手段は何ですか? ことばによるコミュニケーション
15. 左記の項目において、お子さんの好きなことがあれば、具体的にご記入ください。 遊び(テレビゲーム、なぞなぞ)
キャラクター(かいけつゾロリ、恐竜キング、カブトムシ)
歌手(                          )
食べ物( おかし                   )
趣味( 図鑑を読むこと               )
その他(                        )
16. お子さんが人とのかかわりで喜ぶことはどんなことがありますか?先の項目において該当することがあれば具体的にご記入ください 拍手・頭なで・ハイタッチ・握手・くすぐりなど
遊び( なぞなぞ遊び               )
賞賛( 微笑みながら肯定的なことばかけをすること)
お手伝い( 野菜を切るなど調理の手伝い  )
儀式的なやり取り( 特になし           )
お出かけ( 近くのスーパーに買い物に行くこと)
お小遣い ( 与えていない            )
その他(                        )

ワークシート4:(ライフスタイルの特徴)

お子さんの起床から就寝までの1日の生活について、何時から何時までどこでだれと何をするのかご記入ください。

時間 どこで だれと 何をする
7:30 自宅 保護者 起床
7:40 朝食
8:00 身支度
8:10 地域の児童 登校
8:30 学校 介助員 朝の仕度
8:40 担任/介助員 授業
12:15 給食
13:00 学校 介助員 昼休み
13:15 担任/介助員 授業
14:45 下校
14:55 学童 学童スタッフ 自由遊び
16:40 保護者 帰宅(買い物)
17:00 自宅 テレビ・ゲーム
18:30 夕食
19:00 テレビ
20:00 宿題
20:30 入浴
21:00 就寝

お子さんがおおよそ毎日、あるいは毎週、毎月出かける場所についてご記入ください。
だれと行くのか、どのくらいの頻度でどのくらいの時間を過ごすのかご記入ください。

生活地図

ワークシート5:(スキャッタープロット)

1日1列で記入します。1行目に観察を行った月日を記入してください。それぞれの記号の意味は観察する行動の状態に応じて決めてください。時間は必ずしも1時間ごと30分ごとなど等分する必要はありません。
観察する行動: 教室からの退室
観察開始日:10月3日(月)  観察終了日:10月14日(金)

記号の意味:□= 着席 レ= 離席 =退室 =機会なし

活動 時間 10/3 10/4 10/5 10/6 10/7 10/10 10/11 10/12 10/13 10/14
登校(準備) 8:30
朝の会 8:40
1時間目 8:50
休み時間 9:35
2時間目 9:45
中休み 10:30
3時間目 10:50
休み時間 11:35
4時間目 11:45
給食準備 12:30
給食 12:45
掃除 13:15
昼休み 13:30
5時間目 13:50
帰りの会 14:35
下校 14:55

Touchette,MacDonald,& Langer(1985)を参照に小笠原が修正

ワークシート6:(FAOF)

1日1枚の記録用紙です。あらかじめ観察する時間帯の中で等分に分けておきます(30分ごと、1時間ごとなど)。行動やきっかけ、対応についてもあらかじめよく起こりそうな項目を挙げておきます。その時間内で複数の行動が起こる場合には、1回目に起こった行動を1として、きっかけ、対応に同じ1を振っていきます。同様に2回目に起こった行動は2とします。(画像をクリックする表示されます)

ワークシート6 FAOF

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

行動問題が生じているときの子どもの頭の中(気持ち)を想像して吹き出しに書いてみましょう。複数挙げることが大切です。

ワークシート8  頭の中のアセスメント

ワークシート8:(ABC分析)

行動問題の直前に起こっていることをきっかけの箱に、具体的な行動を行動の箱に、行動の直後に起こった結果あるいは周囲の対応について結果及び対応の箱に記入しましょう。ほかの人がみても書いた人と同じことを思い浮かべることができるように書くことが大切です。行動問題が起こる状況がたくさんある場合には、必要に応じて、箱を増やしてください。

(授業時間)

きっかけ 行動 結果および対応
授業(先生の話) 退室する 授業を受けないで済む
介助員から「席に着きなさい」と注意を受ける
保健室で寝転がる
保健室の先生と話できる
眠る
好きな本を読むことができる

(休み時間)

きっかけ 行動 結果および対応
チャイム 退室(保健室へ行く) 寝転がる
保健室の先生と話できる
3時間目の授業を受けずに済む

支援計画

支援方針

1.休み時間の過ごし方の工夫
2.授業中の課題提示の工夫
3.スモールステップで授業参加を促していく(目標を高く設定しすぎずに、こまめに評価する)

1に対するアプローチ

 退室行動の記録を取ったところ、特に3時間目の授業の参加率が悪いことが明らかになった。
 直前の休み時間を保健室で過ごし、休み時間終了の合図で教室に移動せず、そのまま3時間目まで保健室で過ごすことが多かった。
 保健室では、ソファーやベットでゴロゴロ寝転んだり、保健室の器具をいじって遊んだりしている。
 MASの結果からも、この行動には「感覚要求」の機能があり、「寝転がるときの心地よさ」によって維持している可能性が考えられた。保健室に入って寝転がった時点で、その「感覚」によって行動が強化されるため、休み時間に保健室に通わないようにするための工夫から始めることとした。

 休み時間に保健室に行くことを禁止するのではなく、行かなくても済むような手立てを校内委員会にて話し合った。そこで話合われた手立ては、教室に本児が好きな本のシリーズ(かいけつゾロリシリーズ)を10巻並べ、本児専用の読書記録カードを用意することであった。こうすることで、休み時間を自分の教室で過ごすことが習慣化し、3時間目の開始時に教室にいる状態を作ることに成功した。

保護者の主訴でもある「休み時間の友達との関わり」をどのように支援していくかが今後の課題である。

(休み時間)

きっかけ 行動 結果および対応
チャイム
好きな本
読書カード
教室で読書 介助員との会話
読書カードに記録
担任にほめられる
3時間目の授業開始時に参加
2に対するアプローチ

 本児の学習習得状況を再評価し、どの程度の学習であれば自力遂行が可能であるか確認した。また、本児が取り組みやすい学習環境、教材・教具、指示の出し方を調べ、毎回の授業で注意すべき点を担任に伝えた。
 特に有効だった工夫は、本児は「繰り上がりの足し算問題を得意としていること(習得済みの学習課題に対する取り組みが良好であること)」、「5cm四方のマスのノートを用いると最も書きやすいこと」、「ことばで伝えるよりも、ホワイトボードに書いて示した方が理解がスムーズであること」、「黒板の板書をノートに移す作業を苦手としていること」であった。
 介助員・担任が授業中に実行可能な支援について協議した。
 国語では「5cm四方のノートを準備すること」、「板書の際に担任が色チョークで囲み、介助員は同じ色で本児のノートに四角を書き、移す場所を明確にすること」、算数では、「まずは得意な問題のプリントを個別に差し出し、授業時間内に解くこと」、「文章題や、難しい計算はイラストなどを書いてイメージしやすくすること」を実践することにした。
 これらの工夫によって、本児の学習上の負担が軽減し、授業参加が促された。

(授業時間)

きっかけ 行動 結果および対応
学習上の工夫あり 授業参加 学習内容がわかる
授業参加を褒められる
3に対するアプローチ

 本児の退室行動を減らしていくと考えるのではなく、授業参加時間を延ばしていくという発想で目標設定を考え、個別指導計画に記載することとした。
 「退室した・しなかった」による評価ではなく、支援開始1ヶ月間は「教室に10分いられた・いられなかった」ということを目標とし、◯☓による評価を行った。2ヶ月目は「15分」、3ヶ月目は「20分」…というように、スモールステップで指導目標を修正していくこととした。どのような支援が有効であったかを、1ヶ月ごとの校内委員会によって話し合うことで、計画的な支援が進められ、以前の「叱責のみの支援」は行われなくなった。支援計画を立てる際には保護者もケース会議に参加し、学校側は保護者に同意を得た上で経過を逐一報告した。このことにより、保護者が家庭で本児を言い聞かせることも少なくなり、家庭での子供の環境も改善されつつある。