実践例:待つことができずに物を蹴飛ばしてしまう

実践例:待つことができずに物を蹴飛ばしてしまう

ワークシート1:(基礎情報)

おわかりになる範囲でご記入ください。

年齢 16歳
性別
診断名 広汎性発達障害
所属 特別支援学校
知能検査 検査名 新版K式発達検査2001
検査結果 DQ 7
特徴 無発語だが、してほしいことがあったり、ほしいものがあるときに両手を合わせるサインや、ドライブに行きたいときにハンドルを回すジェスチュアー、祖父母の家に行きたいときに電話をかけるジェスチュア―などがあった。思うようにいかないときに「うー、うー」といった唸り声が聞こえることがあった。基本的なADLは自立していた。

 

ワークシート2:(MASDurand とCrriminsが1988年に発表した、行動問題の機能を探るための質問紙。16の質問項目からなり、7段階のリッカートスケールで評価を行う。評価の結果をもとに、物や活動の獲得要求、注目要求、逃避要求、感覚要求の4種類の機能のいずれが当該行動の機能である可能性が高いのか、推測することができる。主観的な評価ではあるが、信頼性や妥当性が確認されている。

お子さんの 物を蹴る・叩く という行動についてのMASの採点結果

感覚要因 逃避要求 注目要求 物や活動の要求
1. 2. 3. 4.
5. 6. 7. 8.
9. 10. 11. 12.
13. 14. 15. 16.
合計= 10 22
平均点= 0.25 2.5 5.5
順位=

ワークシート3:(行動問題の特徴)

1. その行動はいつ起こることが多いですか? 食事の準備をしている時や食事中が最も多い。ほかにも、出かける準備をしているとき、信号待ちなど
2. その行動はどこで起こることが多いですか? どこでも起こるが、学校では少ない
3. その行動は誰に対して、あるいは誰と一緒のときにおこることが多いですか? 家族と一緒の時やヘルパーさんと一緒のとき
4. その行動は何歳くらいから始まっていますか? 4歳ころから
5. その行動はどのくらいの頻度で起こりますか?
(たとえば、1日に2,3回、1時間に1,2回、1週間に1,2回など)
ほとんど毎日、多いときには50回以上。
6. その行動はどのくらいの強さで起こりますか?
(たとえば、隣の部屋に聞こえるくらいの声、叩いたところが青くなるくらいの強さなど)
食卓を下から蹴りあげるために、上に乗っている汁ものがこぼれたりする。本人の膝が青あざになるときもある。壁を叩くときは壁に穴が開く。
7. その行動が起こっている様子を具体的にご記入ください(「他害」というのではなく、頭を自分のこぶしで叩くなど) 「うー、うー」という唸り声や鳴き声と一緒に起こることが多い。膝でテーブルを蹴りあげる。こぶしで壁やドアを叩く。物を壁に投げつける。
8. その行動に対して、どのように対応しますか?
該当することに○をしてください
放っておく・〇要求しているものを渡す・好きなことをやらせる・〇その場から離する・〇注意する・クールダウンのための手続きをとる(具体的には  )・その他(手をとって止める )
9. その行動は上記の方法で収束しますか? 要求が充足されれば収束する
10. その行動はどのくらいの時間続きますか? 4,5分から1時間
11. その行動と関連していると思われる項目があれば、○をして具体的に記入してください。 なし
12. お子さんが特に興味や関心の高いことは何ですか?また、こだわりはありますか? ドライブ、くすぐってもらうこと、食べること
13. お子さんが苦手なことや嫌いなことはどんなことですか? 待つこと、大きな音(テレビや電話の呼び出し音)
14. お子さんの主となるコミュニケーション手段は何ですか? ジェスチュアーやサイン
15. 左記の項目において、お子さんの好きなことがあれば、具体的にご記入ください。 遊び(くすぐり                     )
キャラクター(                     )
歌手(                          )
食べ物(ヨーグルト                  )
趣味(                          )
その他(ドライブ                    )
16. お子さんが人とのかかわりで喜ぶことはどんなことがありますか?先の項目において該当することがあれば具体的にご記入ください 拍手・頭なで・ハイタッチ・握手・〇くすぐりなど
遊び(                         )
賞賛(                         )
お手伝い(                       )
儀式的なやり取り(                 )
お出かけ(ドライブ                 )
お小遣い (                     )
その他(                        )

ワークシート4:(ライフスタイルの特徴)

時間 どこで だれと 何をする
6:00 起床 身支度 学校の準備
6:30 家族 朝食
7:00 ヘルパー 登校
8:10 学校
15:00 ヘルパー 下校 放課後活動
18:30 祖父母宅 一人 帰宅 自由
19:30 入浴
20:30 家族 食事
21:00 自由
22:00 就寝

ワークシート4:(ライフスタイルの特徴)

ワークシート6:(FAOF) 学校以外の場面での1日の様子

画像をクリックすると拡大表示されます。

ワークシート6 FAOF

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

ワークシート7:(頭の中のアセスメント)

ワークシート8:(ABC分析)

行動問題の直前に起こっていることをきっかけの箱に、具体的な行動を行動の箱に、行動の直後に起こった結果あるいは周囲の対応について結果及び対応の箱に記入しましょう。ほかの人がみても書いた人と同じことを思い浮かべることができるように書くことが大切です。行動問題が起こる状況がたくさんある場合には、必要に応じて、箱を増やしてください。

きっかけ 行動 結果および対応
食事の前 座ってから机をけり上げる 注意される。そのうち食事
きっかけ 行動 結果および対応
食事中おかわりをしても「待っていてね」と言われてすぐにおかわりできない うなり声をあげながら机をけり上げる 注意されたり怒られる。ほかの人から食べ物をもらう。
きっかけ 行動 結果および対応
帰宅 誰もいない おじいちゃんの家のドアや壁を叩く 家に入れてもらえる。注意される
きっかけ 行動 結果および対応
信号が赤で渡れない うなり声を上げる 声をかけてもらう

支援計画

支援方針

  1. もっとも頻度が高く、強度も強い食事場面への介入を優先する。食事の準備や食事中のおかわり、食事の終了までの流れをスムーズにする。待ち時間を減らす。
  2. おかわりがほしいときに、ちょうだいという両手を合わせるサインを使う。
1に対するアプローチ
母親の行動 子どもの行動


1 TVを消す
2 窓を閉める
3 電話の音量を下げる
4 子どもがリビングに来る前にエプロンをつけて手を洗うよう促す 1 手洗い・エプロンをつける
どもがエプロンをして、手洗いをしたことを称賛する1
6 子どものおかわり分のご飯やおかずを取り分けておく
7 子どもが着席したらお盆に食事一式を載せ、出す 2 着席
8 お盆に載せた食事を出した時に、「いただきます」と一緒に挨拶をする 3 いただきます


9 子どもがご飯のおかわりをする時に、行動問題が生起したら5秒待つ 4 ご飯を食べる
10 子どものサインの出現をプロンプトにより促す 5,7 おかわりのサイン
11 子どもがサインを示すまでおかわりを渡さない
12 子どもがサインを示したらすぐにおかわりを渡す 6,8 おかわりを食べる
13 子どもが、ご飯・おかず以外のもの(例えばお水)がほしいときには、サインを示すまで渡さない 9 ほしいもののサイン
14 子どもが食事を終わる時に、「ご馳走様」と一緒に挨拶をする 10 茶碗を重ねる・ご馳走様


15 お盆を流しに運ぶよう促し、運ばせる 11 お盆を運ぶ
16 お盆を流しに運んだら、デザートを渡す 12 テーブルへ移動・デザートを食べる
17 デザートの皿を片付けるカゴを渡す
18 デザートを食べ終わったら、お皿やごみをカゴに片付けるように促す 13 デザートの片付け
19 デザートを食べ終わったら、エプロン置き場まで連れて行き、エプロンを片付けさせる 14 エプロン置き場への移動
20 エプロンを片付けたら称賛する 15 エプロンの片付け
21 エプロンの片付け終了後、おもちゃを渡す 16 おもちゃで遊ぶ

・嫌悪な刺激(大きな音)を排除する
・食事の開始と終了について、エプロンを使って示す
・夕食は、子どもがヘルパーさんと登校した後にある程度作っておく
・おかわりを出すことに手間取らないように、あらかじめ取り分けたものをお盆に載せておく

2に対するアプローチ
きっかけ → → → 行動 結果および対応
ご飯を食べ終わる うなり声をあげながら、机をけり上げる 放っておく
きっかけ 行動 結果および対応
「なーに」とサインを促す 両手を合わせるちょうだいのサインをする あらかじめ取り分けておいたおかわりを渡す

おかわりを何回までと決める。決めた回数のおかわりをしたら、「ごちそうさま」のあいさつをして、エプロンをとってデザートを持ち、自分の部屋に戻る。

ポイント

  1. 毎日の食事のことだから、家族に負担のあることは継続できない。
  2. 祖父母の家に行きたいのに、必ず止められてしまうのは、その時の祖父母の都合がわからないため。もともと、祖父母の家に帰宅するというライフスタイルに変えてしまえば、都合が悪いときだけ、変更することが可能となる。
  3. 信号待ちでうなり声を出すことについては、赤になりそうであれば、少しゆっくり歩く、あるいは別の道に行ってみるなど赤にならないように調節する。